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東京地方裁判所 昭和40年(むのイ)177号 判決

被告人 北角藤郎

決  定

(被告人氏名略)

右被告人に対する銃砲刀剣類等所持取締法違反ならびに火薬類取締法違反被告事件について、東京地方裁判所裁判官鬼塚賢太郎が昭和四〇年四月一四日なした同被告人に対する保釈許可の裁判に対し、東京地方検察庁検察官古川健次郎から適法な準抗告なされたので、当裁判所は、つぎのとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

本件について、弁護人安西光雄が昭和四〇年三月二六日、弁護人吉田太郎が昭和四〇年三月二七日になした保釈請求を却下する。

理由

本件準抗告の趣旨ならびに理由は、別紙添付の「保釈許可決定に対する準抗告及び裁判の執行停止申立書」記載のとおりであるからこれを引用する。

よつて案ずるに、一件記録によれば、被告人が冒書の事件について、昭和四〇年三月六日勾留され、同年同月二五日東京地方裁判所に起訴されて引続き勾留されていること、弁護人安西光雄が同年同月二六日弁護人吉田太郎が同年同月二七日なした保釈請求に基いて同裁判所裁判官鬼塚賢太郎が同年四月一四日保釈金一〇〇万円の提供などの条件のもとに保釈許可の裁判をしたこと、検察官が右裁判は刑事訴訟法第八九条第四号および第五号の事由を看過しているとして準抗告を申し立てたことが明らかである。

検察官は、被告人が罪証を湮滅すると疑うに足りる相当な理由があると主張するのでまづこの点について検討する。

検察官の申立理由では、本件勾留に係る公訴事実以外の事実についての罪証湮滅の虞れが強調されている。だが、刑訴法第八九条第四号にいう「罪証湮滅」は、もつぱら、勾留に係る公訴事実についてのみ考慮されるべきものであるから、この点に関する検察官の主張は本件について判断の対象にはならない。そこで、本件勾留の基礎となつている公訴事実について、その事由があるか考えてみる。この事実を裏付ける証拠となるものは、供述証拠以外にないのであるが、これらのうちあるものは、被告人が所属する国粋会の被告人と同程度の地位にある者の供述であり、その他は国粋会三重県支部長でありかつ、博徒紙谷一家山岡三代目を名乗る北角組の組長である被告人の直接の乾分にあたる者達の供述であつて、被告人と全く組織的関係にない者の供述は一つも存在しない。このような事情からみると、被告人がもし釈放されれば、右の供述者等に、自己の地位を利用して働きかけ、自己の罪責の湮滅をはかるであろうことは充分考えられ、被告人が、逮捕前に乾分達に分け与えた拳銃を回収して他に隠匿させたり、逮捕されたのちには、被告人に面会を求めて来た者に命じ、被告人が分け与えた拳銃のうち二丁を回収させて自宅に埋没させる等のことを行つていること、及び右にのべた被告人の乾分のなかで拳銃の入手先を既に死亡した某にするという相談がなされたこと等の事情は、その虞れが極めて強いことを示すものといわなければならない。したがつて、本件について被告人が罪証を湮滅すると疑うに足りる相当な理由があるといわなければならず、一件記録を検討しても、右の事由があつてもなお保釈を許さなければならない事情が認められない。本件について保釈許可決定をなした原裁判は、その他の点について検察官の主張について判断するまでもなく、この点で失当であり、本件準抗告はその理由がある。よつて刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項を適用して、原裁判を取り消し、同法第八九条第四号に該当する事由が存すること前記のとおりであるから本件について弁護人安西光雄が昭和四〇年三月二六日、弁護人吉田太郎が昭和四〇年三月二七日になした保釈請求をいずれも却下する。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 安村和雄 杉山英已 熊本典道)

(別紙、申立理由)(略)

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